インプロとは

インプロは「即興」を意味する「Improvisation(インプロヴィゼーション)」の略であり、ここでは即興の演劇のことを指しています。普通の演劇には台本がありますが、インプロには台本がありません。また、あらすじも決まっていません。本当に先が分からない中で、プレイヤーたちはお互いを受け入れあいインスパイアしあいながらシーンを生み出していきます。

インプロは日本ではまだまだマイナーなジャンルですが、欧米ではよく知られており、毎日のようにインプロショーが行われています。また、インプロ専用の劇場も世界各地にあります。

世界中で行われているインプロに大きな影響を与えているのが「インプロの父」と呼ばれるキース・ジョンストン(Keith Johnstone)です。キース・ジョンストンは俳優が抱えるさまざまな問題を解決するために数多くのインプロゲームを開発しました。また、インプロをショーとして見せるためのフォーマットも開発しました。

そして現在ではインプロは創造性・コミュニケーション・チームビルディング・リーダーシップといった観点から教育においても活用されています。アメリカではApple、Pixarといった企業もインプロを研修として取り入れています。

Why?

なぜインプロは企業研修に
取り入れられているのか?

即興演劇と企業研修、一見すると、そこには全くつながりを感じられないかもしれません。しかし、アメリカではAppleやPixarといった企業もインプロを研修として取り入れています。では、このような企業はなぜインプロを研修に取り入れているのでしょうか?

アニメーション・スタジオのPixarは、社員教育プログラムである「ピクサー・ユニバーシティ」にインプロのクラスを取り入れています。ピクサー・ユニバーシティの学長であるランディー・ネルソンは、ピクサーがインプロを取り入れた理由を次のように話しています。

※高尾隆『インプロ教育―即興演劇は創造性を育てるか?』(フィルムアート社、2006年)より一部を抜粋

協同的創造性を促進させるため

私達の芸術はチームスポーツとしての芸術である。だから、どんなに個人の技能が優れていても、その技能に加えて、ともに働く能力という技能を伸ばす必要がある。インプロには、人々がともに働くための核となる技能がある。それは、協同的創造性を促進させる。

直観を解放するため

インプロは直観を解放する最もよい方法の一つである。それは、「ちがう、ランディ。それは悪いアイディアだ。そんなことを言うな」と言う、判断を司る脳の部分を自由にしてやることである。インプロは、本能、感覚、そういったものに関わる助けとなる。多くの場合、予想していないもので、かつ自然であるよいストーリーをつくるのに、インプロは最も役立つのである。

インプロはこのように、組織や個人の創造性を高めるために企業に取り入れられているのです。

How

インプロはどのように
創造性を高めるのか?

では、インプロはどのようにして創造性を高めるのでしょうか?そこにはユニークな考え方があります。それは、「恐れを取り除く」ことです。

キース・ジョンストンのインプロの基本的な考え方を表すものに、次の言葉があります。

大人は萎縮した子供

多くの教師は子供を未成熟な大人と考える。しかし、もし私たちが大人を萎縮した子供と考えるならば、より敬意を持った教育を行えるだろう。

キース・ジョンストン

人は生まれながらにして創造的であり、表現をする生き物です。これは小さな子供が自然と歌ったり踊ったり物語を語っている様子を思い浮かべると分かるでしょう。

しかし、学校に入ったり社会に出たりする中で、人は次のような恐れを抱えていきます。そしてそのことによって自由な表現ができなくなっていくのです。

評価への恐れ
自分が他者からどのように見られているかへの恐れ。
未知への恐れ
先が分からないことや、自分が理解できないものへの恐れ。
変化への恐れ
自分が変化することへの恐れ。(未知への恐れと強く結びついている。)
失敗への恐れ
失敗することへの恐れ。(評価への恐れの中でも特に強いもの。)
対立への恐れ
人と異なる意見を表明することへの恐れ。Noと言うことへの恐れ。
権力への恐れ
コントロールされること・またはすることへの恐れ。(人によって異なる。)

インプロを学ぶ中で、人はこれらの恐れに気づき、手放していきます。そして、本来持っている創造性や利他性、好奇心やチャレンジ精神が再び発揮されていきます。

インプロが創造性・コミュニケーション・チームビルディング・リーダーシップなど、広範囲に渡って影響を及ぼすのは、「足りない何かを付け足す」のではなく「不要な恐れを取り除く」という性質によるものです。それは「ありのままの自分」を取り戻すプロセスと言ってもいいでしょう。

What?

具体的には何を行うのか?

インプロワークショップの特徴は、その考え方を学ぶために「インプロゲーム」と呼ばれるゲームを用いることです。これによって、参加者は「楽しく」「身体的に」学ぶことができます。ここではキース・ジョンストンが開発したいくつかのゲームを紹介します。

サンキューゲーム

基本は2人組で行うゲームです。ひとりが体で形を作り、もう一人がそれを見て思いついた形で入っていきます。(例:「手を挙げている人」→「タクシー運転手」)ただし、形を見て何も思い浮かばないときは形を作っている人の体を動かして普通の状態に戻します。形を作っている人は入ってきてくれた場合も戻してくれた場合も相手に「サンキュー」と言って役割を交代します。

アイデアを頑張って考え出そうとするのではなく、自然に思い浮かんだものを表現することがポイントです。頑張ってアイデアを出そうとしている自分に気づいたら、それに固執せず相手を戻してあげればオーケーです。「アイデアが出ない自分」も受け入れることで、「アイデアを出さなきゃいけない」という恐れを取り除いていきます。そしてその結果としてアイデアが出やすい自分になっていきます。

ワンワード

2人組から大人数までで行えるゲームです。ひとりひとことずつを話しながらストーリーを語っていきます。(例:昔々/山の中に/一匹の/狼が/いました。狼は/とても/強くて……)もし途中でつまったりストーリーがおかしくなったらみんなで「もう一回!」と言って新しいストーリーを始めます。

難しいゲームなので失敗して当たり前です。重要なのは失敗したと思ったらすぐに「もう一回!」と言ってやり直すことです。失敗をごまかそうとするとその場所は重い雰囲気になり、さらに失敗できない場所になっていきます。しかし、失敗をオープンにすればその場所はいい雰囲気になり、より安全な場所になっていきます。仲間とたくさん失敗する中で、失敗への恐れを取り除いていきます。

次どうなるの?

基本は2人組で行うゲームです。ひとりが相手に「次どうなるの?」と尋ね、相手は「森へ行きます」というように提案をします。尋ねた人は提案にインスパイアされたら実際に2人でそれを演じます(森の中を歩く)。提案されたことをしたら、再び同じ人が「次どうなるの?」と尋ね、提案する人が再び「小屋を発見しよう」というように提案することでストーリーを作っていきます。ただし、尋ねた人が提案にインスパイアされなかった場合はかわいく「ノンッ(Non)」と言って終わります(役割を交代するバージョンなどもあります)。

提案する人はいいストーリーを作ろうとするよりも、パートナーにいい時間を与えようとすることがポイントです。そして尋ねる人は自分に正直に提案を受け入れたり断ったりすることが大事です。本当はインスパイアされていないのに遠慮して受け入れると、お互いに楽しくない時間を過ごすことになります。ただし、厳しく「ノー!(No!)」と言うと提案する気持ちがなくなってしまうので、あくまでもかわいく「ノンッ(Non)」と言います。相手を傷つけず、正直にNoと言う練習です。そしてそれを繰り返す中で、対立への恐れを取り除いていきます。

イルカの調教ゲーム

イルカ役の人がひとり舞台に上がり、他の人は調教師役としてイルカに聞こえないようにやってほしい動き(例:正座する)を決めます。ゲームが始まったら調教師はイルカにその動きを教えますが、言葉で教えることはできません。イルカが自由に動き回っているときにやってほしい動きに近づいたら(例:しゃがむ)「リン」という合図のみでイルカに動きを教えていきます。イルカがやってほしい動きをできたら終わりです。なかなか分からずイルカが困っているときは調教師がヒントをあげます。もちろんお互いギブアップしても構いません。

このゲームで学ぶ主体はイルカではなく調教師です。そしてゲームが成功したか失敗したかは重要ではなく、イルカが自由に楽しく学べたかが重要になります。イルカ役の人に恥をかかせる無茶振りゲームではありません(そうなっていたらうまくいっていません)。恐れなく学べる場をつくるゲームであり、リーダーやマネージャーにとって非常に示唆に富むゲームです。

その他のゲーム

インプロゲームはキース・ジョンストンが開発した以外のものも含めると数百に及び、ここで紹介したゲームはその一部に過ぎません。ワークショップではそれらのゲームの中から、参加者や目的にあわせたゲームを選択していきます。

インプロにご興味がある方はどうぞ体験ワークショップへとお越しください。インプロを学ぶことは泳ぐことを学ぶことに似ています。頭で理解しただけではあまり意味がありません。水に入ることによって、人は初めて泳ぐことの意味を知るのです。

世の中には「Yes」と言うのが好きな人と、「No」と言うのが好きな人がいる。
「Yes」と言う人は冒険を手に入れ、「No」と言う人は安全を手に入れる。

キース・ジョンストン