海外ではPixar、Google、Netflixなど、様々な企業がインプロ(即興演劇)を企業研修として取り入れています。企業研修とインプロ、一見すると関係が無いように思われますが、なぜこのような企業はインプロを研修に取り入れているのでしょうか?この記事では、Pixar、Netflix、 IDB(米州開発銀行)を例に、企業がインプロを企業研修として取り入れている背景をご紹介します。
Pixar:コラボレーションを促進する
まず初めに、Pixarに注目してみましょう。Pixar University (Pixarの社内教育プログラム)学部長のRandy Nelson氏は、Pixarはコラボレーションを促進するためにインプロの2つの考え方を取り入れていると言っています。
①全ての提案を受け入れる(Accept every offer)
②パートナーを良く見せる(Make your partner look good)
①「全ての提案を受け入れる」はインプロの基本的な考え方のひとつです。人は相手の提案を受け入れているつもりでも、つい「良いアイディアだね、でも…」と受け入れない理由を考えてしまうものです。しかし、大樹になる可能性のある新芽を摘み取ってしまっては、森は育ちません。Nelson氏は同動画でこう語っています。
あなたは、それがどこへ向かうのか分からない。でも確実に言えるのは、もしその提案を受け入れなかったら、どこにも行けないということだ。つまり、一方は確実に行き止まりで、もう一方に可能性がある。
もちろん、最終的に全ての提案を受け入れなければならないわけではありません。しかし、可能性を探究するためには、一度受けれて考える必要があるのです。受け入れなければ、「自分」という枠を超えることはできません。
②「パートナーを良く見せる」もインプロの基本的な考え方のひとつです。人は人前に立つと「自分をよく見せよう」としてしまいがちです。しかし、それではコラボレーションを起こすことができません。互いに「パートナーを良く見せよう」とすることで、ひとりではたどり着けなかった場所に到達することができます。
これは仕事の場面でも起こることです。上司に認められたい、出世したい、などの思いが強くなると、自分を良く見せようとしてしまいがちです。同時に、自分を良く見せるために相手の印象を悪く見せようとしたり、評価を下げるように行動してしまったりすることもあるかもしれません。しかしこれでは、チームの雰囲気も悪くなってしまいます。互いに協力しあい、士気を高めあいながら成果を出すには、引き算ではなく、足し算の考え方が必要なのです。Nelson氏はこう語っています。
提案に対して、あなたは批評しない。「これは結構いいけど、私がこうすればもっとよくなる。」と言わないし、「これはあまり良くないな、こうやって直そう」とも言わない。
代わりにこう言う。「これが第一歩だ。次に何ができるだろう?これにどうプラスしよう?この提案をどう受け入れて、パートナーを良く見せよう?」
Nelson氏はこのような態度をもって「検討する(on the table)」と呼んでいます。
Netflix:共に失敗することで信頼を築く
次に、Netflixでは、「失敗すること」をインプロの柱にしています。事業開発責任者のBill Holmes氏は、”Google and Netflix know the power of improv in the workplace. This is how to make it work for you” という記事で次のように述べています。
共に失敗することで信頼を築く。
インプロは本質的に、絆と信頼を非常に素早く築くことのできるツールになった。
インプロは即興で行うため、本質的に「失敗すること」を含んでいます。そのため、失敗しないことではなく、安全に失敗することや失敗できる場をつくることを大事にしています。失敗をオープンにし、その勇気を称える。インプロを通してそのような体験をすることで、自然と絆と信頼が生まれていきます。
インプロと失敗に関して、上記記事ではスタンフォード大学講師Dan Klein氏の見解が次のように書かれています。
Klein氏は、インプロは失敗の快適さや警戒心を緩めること、安心してアイディアを探ることを教えると同時に、レジリエンスを教えると言う。
だから、失敗したときはひるんだりたじろいだりするのではなく、「良かった、今どんな可能性が生まれただろう?」と考えるのです。
インプロを体験することで、人々は失敗を「憎むべきもの」「避けるべきもの」という考え方から、「受け入れるべきもの」「歓迎すべきもの」という考え方へと変わっていきます。そしてそれはイノベーションを起こすための基本的なマインドセットになります。なぜなら、失敗を恐れていてはイノベーションは生まれないからです。
IDB(米州開発銀行):固定観念からの解放
最後にご紹介するIDBでは、「固定観念からの解放」を目標にインプロを取り入れています。(参考記事:Organizational Improv: A Creative Approach to Corporate Training)
彼らが抱えていた課題について、渉外部のTrinidad Zaldivar Peralta氏とJonathan Paul Goldman氏はこう語っています。
創造性はますます重要視されていくが、私たちは確立されたやり方に固執するばかりだった。
インプロを試す前は、多くの行員がクリエイティブでいるためにはデザイナーにならなければならないと考えていた。
しかし、Peralta氏とGoldman氏は、伝統的な企業にこそ創造性が必要であると考えていました。
「創造性」というと、一部の天才のみが持っている特別な才能とみなされがちです。しかし、インプロでは誰もが創造性を持っていると考えています。そして、創造性に蓋をしている様々な恐れに気づき、手放すことで、創造性を開放していきます。
なお、創造性研究においては、特別な才能としての創造性は大文字の「CREATIVITY」、誰もが持っている創造性は小文字の「creativity」と区別されています。そしてVUCA時代においては、誰もが小文字のcreativityを発揮することや、チームとしての創造性(group flow)を発揮することの重要性が高まっているとされています。
インプロは小文字のcreativityを発揮することや、チームとしての創造性を発揮することに強みを持っており、海外では創造性研究の題材にもなっています。(参照:「凡才の集団は孤高の天才に勝る」キース・ソーヤー)
アクティビティを終えたPeralta氏とGoldman氏は、同記事でこのように語っています。
今あらゆる地位の従業員たちが自分たちが鼓舞されていることを感じている。全てのチームの能力がたった数時間で解放されるのを見るのは皆にとって力強い経験だった
コラボレーション、失敗、固定観念からの解放……インプロが扱うテーマは多岐に渡ります。ここに上げた例もその一部に過ぎません。ご興味ある方はフィアレスまでお気軽にご相談ください。