部下に声をかけても「はい」しか返ってこない。|能力ではなく、前提がズレているからかも?

新しく社会人になった方が

「この仕事ってどうなった?」
「どうしてこの形で作ったの?」
「自分はこう思うんだけど、あなたはどう思う?」

そんなことを聞いた時、部下が「う〜ん」とか「はい」としか回答されないことってありませんか。部下が緊張しているのが分かったり、なんなら焦ってしまっている様子があるかもしれません。

この時、部下の中で何が起こっているのかを考察してみたいと思います。

この場において「何が正解か」を考えてしまっている。

上司としては、部下の考えを聞きたから質問している場合も、部下はその場の正解を出さないといけないと思っているかもしれません。

質問された時に
「なんて答えるのが正解なのか」
「上司は何を求めているのか」
など、自分が考えていることではなく、その場や相手にとっての正解を探しているのです。

正解探しをした結果、それっぽいことを回答できる人もいますし、適切な回答が自分の中にはないので見つけることができず、固まってしまったり、「はい」というしかなくなってしまうの人もいるでしょう。

では、そもそも自分の考えではなくその場の正解を探しに行ってしまうのはなぜでしょう。

世界には正解があると思っている

日本の学校教育は、自身の力で唯一の正解に辿り着けるようになる訓練をする場所である。
という説明に、納得する人も多いのではないでしょうか。

学術的に教育を学んだり、現行の学習指導要領を確認すると、上記のような教育を目指しているわけではないこともわかってきた筆者ですが、自分たちが受けてきた教育の実態や現場の肌感として、日本の学校教育に抱いているイメージは「正解を導き出す訓練」であるのは事実だと感じます。

正解を導き出す訓練を、義務教育では9年。大学まで進むと15年受けてきているため、世界には常に正解があるんだとどこかで感じてしまうのは当然のことではないでしょうか。

授業中の返答でも、先生が答えて欲しいことがあったり、生徒に望んでいる行動がに合わせて対応した経験のある方もいませんか?人によっては、大人の顔色を伺いながら、その期待に応えてい区ことが癖になってしまうこともあるでしょう。

だからこそ、上司が何を期待しているのか、どんな答えを言って欲しいのかを考えてしまっているのかもしれません。

何か別のことが気になって不安になっている

こんな方がいました。
会社の輪転機を販売・運用するメーカーに入社した方でした。新入社員は上司に同行して、導入している会社のオフィスを回って定期点検をしていきます。
その際、上司が新入社員に「元気よく挨拶してオフィスに入るように」と声をかけたのですが、実際にオフィスに入るときはとても声が小さく、恐る恐る入っていきます。
何度か注意し、大きな声で入るように再度説明したのですが、行動が改善されません。

困った上司が改めて話を聞くと、こんなことがわかりました。
・それぞれが電話対応や社内での相談などお仕事をしている空間に、大きな声で入ることで邪魔してしまうことがあっていいのだろうかと疑問だった。それよりは迷惑にならないようにそっと入ったほうがいいだろうと思っていた。
・初めていく場所で、自分のことを誰も知らない中で、大きな声で挨拶をしても「誰だろう?」と思われてしまうのではと不安だった。
・プロとして現場に入っていくのに、輪転機の場所がわからずキョロキョロしたり、オフィスに入ってから上司に場所を聞くことになり、申し訳ない気持ちでいっぱいで、オフィスに入る時に毎回不安だった。

人によっては、考えすぎだと感じる人もいるでしょう。
現場を何年も経験している身からすると、出入りの業者がその場で確認していることや、毎回違う人が訪問してくることは、さほど違和感のあることではないことを経験から知っています。それよりも、挨拶もほとんどなくオフィスに入ってくることの方が失礼に値することなども感じているでしょう。

しかし、そんな前提知識のない新入社員にとっては、これまで生きてきた世界の価値観と大きく異なったため、上司が言っている言葉は理解しつつも、その言葉を信じてやってみることができなかったのです。

能力ではなく、前提を見てあげることで解決の糸口が見つかるかも

どの事例も、上司がして欲しいことと、部下がしようとしていることにズレがあります。この時に「能力があるかないか」という軸で見てしまうことが多いですが、そもそもお互いに持っている前提や見えているものが違うこと(情報の非対称性)によって起こっている場合が多々あります。

表面で起こっていることや行動だけでなく、その手前の前提は認識しあえているのか、求めていることができない時、なぜできないのかに目を向けてみることで見えてくるものがあるかもしれません。

前提の確認や、その後の指導をする中で大切なこと

①上司と部下で一緒に課題を認識する

部下への指導で困った時、上司やそのレイヤーのメンバーだけで今後の検討や対策をしてしまうことがよくあります。しかしこれでは、部下自身が何に困っているのか、どんな前提を持っているのかをすり合わせすることなく対策がされてしまうため、意味のある形にならない可能性が高いです。

また、部下は自分の学びや成長への方向性について、自身が関与されないところで検討されることになります。結果、考えが伝えられずフラストレーションが溜まったり、反対に何を話されているのか気になって不安になったりすることがあります。成人学習(マルコム・ノウルズ)では、成人は自らが学ぶことの計画と評価に直接関わる必要がある。と提唱されています。
子どもは大人が考えたカリキュラムに従う形でも学ぶことが比較的しやすいですが、成人では自分自身で計画すること、評価することが大事になっていくのです。

上司と部下が一緒に目の前の課題を認識して、これからどう進んでいくのかを検討するよう意識しましょう。

②相手の考え方を理解できないことを許容する

上司が理解しているこの世には正解があることばかりではないことや会社としての常識について、反対に新入社員が気になっていることなどは、時には理解し合えないことがあります。
この時に、互いに”理解できなかった”ということを認識・許容することは可能です。

例えば、部下が「正解がないということはまだにわかに信じられていない。しかし、上司は正解がないと思っていることは理解した」という形で理解することができるのです。上司側は「自分は正解がないと確信しているが、部下はまだそれを信じきれていないんだ」という形ですね。

人は他人や事象を完全に理解することはできません(他社理解の不確実性)し、価値観や考え方を理解し合うことも時間がかかります。だからと言って、自分が理解できることだけで物事を進めていくと、互いに理解し合うことも、仕事をする中でとる行動も変わってきてしまいます。お互いのことについて、どこまでわかって、どこまでわからないのかを含めて認識し合うことができると、今後どうお互いの認識を合わせていくべきなのか、フォローすべきところはどこなのかを考えていくことができます。

人の不完全さ、コミュニケーションの不確実性を前提に、お互いに許容しながら進むことで、より良い関係性が作られていきます。ぜひ、ご自身の職場でも取り入れてみてください。